死者を想う

 死んでしまった人のことを思い出している。さよならを言うことも、ありがとうを言うことも叶わなかった人のことを。親しい人の死に触れるたびに、僕たちはいかに自分たちが死に対して無知で、無力で、無防備であるかを思い知らされる。

 僕は昔、その人についての文章を書いたことがある。彼が死んでしまってから、どうしても彼のことを自分なりに文章にして残しておきたいと思ったからだ。書き終わるまでに何日もかかり、最中に何度か泣いた。
 その人についての文章を書くことは、その人と自分との歴史を振り返ることでもあった。今までのいろんな出来事を抽斗から引っ張り出してきて、毎日ひとつづつ眺めているみたいだった。

 書いている間じゅう、僕はずっと後ろめたい気持ちを抱えていた。死者について個人的に何かを書くということは、なんだか礼を失しているような気がしたのだ。でも、出来上がった文章を見て、書いてよかったと思えた。その人についての文章を書くということが、自分なりの弔いになったと、そう思えた。何よりも、自分が救われたと感じた。その文章は今でもときどき読み返す。

 死はいつも、僕らのそばにある。